天球ディスターブ 37





眠れぬ夜が続いていた。

夜、まどろみの中で目を閉じると、ユリと、先日の兵士、そして隊長の最期がまぶたの裏に蘇ってくる。

記憶だと分かってはいるが、眠れない。

記憶の中の三人は皆一様にのほうに視線を投げかけているのだ。しかも、憎悪に満ちた視線を、である。



はベッドに腰掛ける。自室はいつの間にか綺麗になっていて、ベッドも新しくなっていた。

クイーンサイズになったベッドにはアルベルトとシーザーが小さな寝息を立てて眠っている。

この子達を早く親元へ送り届けたい。そう思いはするが当の本人たちが了承しないので出来ない。

危険だというのに。――強制できない自分も甘いと分かっているが。



立ち上がり、窓の前に立って夜空を見上げる。ガラスも何もない窓だが、風は寒いどころか心地よい。

今は何の季節なのだろうか。いや、そもそもここに季節なんてものはあるのだろうか。

この地が球体なのかすら怪しい。

つくづく、この世界について知っていることはほんの一部――ほとんど知らないのだと思い知る。



は月を見上げる。満月ではない。かといって半月というわけでもなく、三日月といえるほど細くもない。

中途半端に膨らんだ月が夜の城に光を与える―――綺麗過ぎて忌々しい。

そっと、腹部に巻かれた包帯に手を当てる。

血濡れのに驚きながらも手当てをしてくれたことがありがたかった。ズキン、と鈍い痛みが走る。



月を見上げる。何回、月を見ながら次の日を迎えたのか分からない。ウトウトすることでしか睡眠を取れない。

部屋から出ることは禁止された。今も部屋の前には寝ずの番をしている兵士がいるはずだ。



あの後、大広間の皆は冷静さを取り戻したらしい。

何があったのかはの知るところではなかったが、が幹部・宿星とともに決意表明をしたそうだ。

シエラからそれを聞かされたとき、正直ほっとした。ただ、へ謝罪やら――まあそういう類のものは無い。


――そりゃそうか。


別にの演技を額面通りに受け取ったとか、そんなことではないだろう。彼らも馬鹿ではない。

の演技など、とっくに見破っている、とはシエラの言である。自分でもあれは酷かったと思う。

ただ、良くも悪くも彼らは「大人」なのだ。信頼の対象である。

信頼を寄せられるべき彼らが、兵士の言葉を借りるなら「小娘」でしかない自分に謝罪する姿を見て、

周りの人々はどう思うだろう。――少なくとも、今までのように信頼は出来なくなる。

しようがない、と思う。

もその点は承諾している。もともと「完全悪」を気取ったのだから、謝罪されることは考慮していなかった。

だから、部屋に訪れ、すまないと謝るシュウの姿が、なんとなく――しっくりこなかった。



マチルダへ進攻するのだそうだ。ここのところ城が騒がしいのもそのためだという。

戦争が終われば皆が謝罪に来るだろう、そう言われても実感が沸かなかった。ううん、と首を捻った。

もちろん傷ついていないと言えばそれは嘘だ。誤解がなくなるのなら嬉しい、とも思う。

ただ、食事を運んでくるヨシノとヒルダが、ごめんなさいと、本当に申し訳なさそうに頭を下げるのを見て――

やはり謝罪はして欲しくない、と思った。胸の奥が痛くて堪らなかった。



謝らないで、顔を上げて、笑ってほしい。彼女たちの、笑顔が見たい。

皆の笑っている姿が見たい。謝罪はいらないから、忘れてくれて構わないから、笑って欲しい。

笑って、笑って、笑って、ああ、また3人の顔が、



は右手で包帯を外していく。

あらわになった腹部には、すでに傷など何処にもなかった。



――眠れぬ夜が続いている。










チリ、と目の端に届いた光に気付く。

夜が明けたようだ。読んでいた本に栞を挿み、椅子を窓の前まで持って行き、腕に顔を乗せて城下を覘いた。

人が家から出てくる。一人、二人…その後はわらわらと。ヒルダの姿も見えた。

皆、やはり忙しそうだ。明日か明後日あたりに出兵するのではなかろうか。


「…ん……」


微かな呻き声に、顔をベッドに向ける。もぞもぞと布団が数回動いて、シーザーがひょっこり顔を出した。


「…ねーね」


半目である。小さな手をに向けて伸ばす。いわゆる「抱っこ」のおねだりだと知ったのは、つい最近だ。

苦笑して本を机に置いてベッドまで行き、シーザーを抱き上げる。シーザーはの服をギュッと握り締めた。

ポン、ポンとリズムを取りながら背を軽く叩くと、また睡魔が襲ってきたようだった。

しかし思いのほか強い力で服を握っているため下ろせない。筋肉が痛んだが、耐えることにした。


「……ふあ…。……お早うございます」


アルベルトも起きた。はシーザーを抱っこしたまま椅子に座る。最近の朝の光景だ。

は笑った。


「おはよう、アルベルト」






朝食を摂り(最近やっと謝罪を治めることに成功した)、アルベルトはシーザーと共に図書館へと赴いた。

最初はシーザーがどうしても部屋に残ると聞かなかったのだが、それはあまりに不健康だと言い含めた。

アルベルトは謹慎の旨を告げるとあっさり「じゃあ僕は図書館に行きますので」と言った。

本を何冊か余分に借りて部屋に置いてくれるあたりは彼なりの気遣いなのだろう、と勝手に解釈している。


――ああ、暇だ


放っておくとどこまでも沈んでいきそうな意識を、不謹慎な言葉で掬い上げる。

椅子の上で体育座りをして、横目でテーブルの上の本を見ながら、挿んである栞を抜き差しする。無意味だ。

コンコン、とノックの音が鳴り、扉が開く。珍しいなと思いながらそれを眺めた。

入ってきたのはシュウだった。


「元気そうだな」

「うん、それなりに。準備が大分進んでるみたいだけど、明日か明後日あたりに出兵?」

「明日だ。…そのことについて話しにきた」


は微かに眉を寄せる。マチルダ進攻についてシュウが自分に話すことが予想できなかったからだ。

シュウはそんなの心中を分かっているのか分かっていないのか、話を続けた。


「お前もマチルダに行け」

「……」


は目を点にした。

一瞬の間、思考だけでなくの内的世界全てが確実に時を止めた。


「何を…」

「先に言っておくが、冗談ではないぞ。まあ、冗談で済ませられるものでもないが」

「それは分かるけど、一体またどうして。今の私の立場はとても微妙…というより最悪なんじゃ」

「まあな。だが、それでも以前よりはマシだろう。どこかの誰かが下手糞な芝居をしたおかげでな」

「…そんなに下手だったかな」


シュウは呆れたような顔をして、溜息を一つついた。


「いいや?演技だけをみるなら上出来だ。だが、あんな話と事があった後に、誰がお前の演技を信じる?

お前の演技は上手すぎて、逆に不自然だったな。…いや、それでも初めは信じた者もいたようだったが」

「演技過剰?」

「そういうことだ。ああ、それでいくとやはりお前は下手だな。行き過ぎは上手いとは言わん」


は言葉に詰まる。反論の余地が無い。

もっとも、にはシュウに反論できるほどの知識も経験も無いので、それは至極当たり前のことであったが。

ふと、話が逸れたことに気が付いて、軌道修正した。


「それで、私がマチルダに行くって」

たちのサポート要員としてな。心配しなくてもパーティーメンバーは全員了解済みだ」

「…何で私が行くことに?」

「最大の要因はお前の紋章だ。その…天球、だったか。その紋章以上に攻守共に優れた紋章はなかろう。

……ああ、お前は回復に専念してくれればいい。攻撃や乱発はお前の得意とするところではあるまい」


シュウは一息にそう言い切ると、扉から離れて椅子に腰掛けた。

この部屋には椅子は一脚しかないので、自然、はベッドに腰掛けることになる。


「行ってくれるな?」

「…役に立つか分からない。これまで出来たことが出来なくなっているかもしれない」

「トラウマになっているということか?」

「分からない。ただ、…私が殺した人たちが、とても怖い映像で蘇ってくる」


自分で言って、そのあまりの醜さに吐き気がした。

――何でなんだろう。

自分が(先日の兵士は付き合いが浅すぎるのでともかく)、ユリと隊長を嫌悪している――そんなはずはない。

寧ろ、


「……なんで、何でなんだろうなあ……嫌だなあ……大切な人を、私は穢してしまっている」


最近の自分は確かに弱っている。

それは紛れも無い事実だった。

この世界に来て、多少なりとも度胸は付いた。

もといた世界から持ち越した性格から、目的のためには自分を偽ることは厭わなかった。

だから、今は弱っているのだ。

――でなければ目尻が熱いはずがない。






駄目だ、と自分に喝を入れる。

今は駄目だ。今は、弱音を吐いてはいけない時だ。今が、弱音を封じ込める時なのだ。

戦争終結はの目前にぶら下がっている。

弱音を吐いて、歩みを止めて、それでどうする。それよりも終結に向けて協力するほうがずっと良い。

長く重い息を吐いて、は言った。


「…ごめん。行くよ。いつ?」

「明日だと言っただろう」

「聞いてなかった。ごめん。…また、急なことで」

「チャンスに早いも遅いもない。進攻の準備はほぼ整っている。――では、俺の部屋に来い。話の続きだ」


はシュウに従った。






シュウの部屋に来る道程で、何人かとすれ違った。皆一様に目を背けていたが、以前のようには疎まれない。

それだけで、とても大きく進歩したように思えた。いや、実際、大きな進歩なのだ。

シュウは書類が山と積もった机に大儀そうに腰掛けた。

机に肘をついて手を顔の前で組み、それに額を乗せた。苦悩しているようにも見える。

誰かがドアをノックした。


「――開いている」


入ってきたのはキバだった。


「わざわざすまない」

「何の。わしは将軍で、貴方は軍師だ。労いは不要」

「…そうか。呼んだ理由は分かっておられるか」

「薄々。髪は無いが知能が無いわけではないのでな。単刀直入に言いなされ、シュウ殿」


シュウは息を吐いた。やはりどこか気乗りしない、といった顔だ。

しかしそんな感情でシュウが策を変えるはずもなく、それはいとも容易く言葉として彼の口から出てきた。


「キバ将軍。あなたに――囮になっていただきたい」

「…ほう。囮、とな」


は拳を握り締める。展開は分かっている。しかし止めない。

いくらが展開を――未来を知っていたところで、それはこの場では大して役に立たない。

キバが是と言えば是として流れる。否と言えばシュウは別の策を考えるのだろう。

だが、キバが断るはずがない。


「――そうですか、ミューズに。…分かりました。お引き受けしましょう」

「…すまない。あなたの命を――」

「みなまで言いなさるな。わしは承諾したのです。謝られる道理はない。頭を下げるなど、あなたらしくもない」


――ああ。

は嘆息した。彼は将軍だ。外にも内にも、などには考えも及ばぬほど深い志が輝いている。

キバはの姿を目に止めると柔らかく笑んだ。


「そちらのお嬢さんは、確かわしの部隊にいましたな。最も、全員いなくなってしまったが。――よく生きた」


はその言葉に再び目を点にした。

彼はおそらく、ルカと戦ったときの――あの凄まじい複合魔法が放たれたときの戦闘のことを言っている。

驚きを言葉にする。


「知っておられたのですか」

「女性は一人だけ――お嬢さんだけであったからな。自然、目立つ。生き残ったことも拍車をかけたようだ」

「…そうでしたか」


少し、怖くなった。一人だけ生き残ったことが罪悪感を生んだ。

キバに責められるかもしれないと、不躾にも思った。

しかしキバはそんなの心中とは裏腹に、柔らかく微笑んでの頭に手を置いた。

最近、遅まきながら気付いた。自分の頭は掴みやすい位置にあるか、もしくはそれ自体が掴みやすいようだ。


「気落ちなさるな。あなたが何かしたわけではないのだろう」

「…未然に防げたかも、しれないと」


そういうと、キバは豪快に笑った。


「お嬢さんはどうも自分の力を過信する節がある。

出来なかったものは、どう転んでも出来なかったのですよ。少なくともそのときは」


は目を見開く。

キバの柔和な表情の中に、揺るぎない信念や覚悟や――厳しさを垣間見たような気がした。

それと同時に、自分がいかに愚かな発言をしたかを知らされ、知らず赤面する。


「…すみません」

「いやいや。若い頃のわしはもっと過信しておったぞ。気にすることはない。兵を悼めば――良い」

「はい」


うむ、と頷いて、キバはシュウに一言二言話すと部屋を出て行った。

拳が固く握り締められているのを見て、どうしようもなく苦しくなり、目を瞑って心中の痛みに耐えた。


「さて――話の続きをするとしよう」










メンバーは、ナナミ、フリック、ビクトール、ルック、だった。は同行者兼回復係である。

前日に緊張してあまり眠れなかったが問題ない。それ以上の緊張がを覚醒させる。


――が皆を鼓舞する姿、見たかったけれど。


混乱を防ぐためには自室待機だった。




子供たちは無事でいるだろうか。

アルベルトとシーザーは部屋に残っているはずだ――もっともアルベルトはこれ幸いと見物しそうではあるが。

も戦場へは連れて行ってもらえなかった。森の中で待機していろと強く言われてしまった。

しかしそれは案外好都合だったのかもしれない。目の端にとらえた赤色に眩暈を覚えたのだ。

待機しているとルックがテレポートで現れ、をマチルダの城、ロックアックス城の門前へといざなった。

フリックとナナミが申し訳なさそうに謝罪してきた。演技のことも治癒魔法のこともバレているようだ。

謝られているうちに何だか妙に照れくさくなってしまったのだがナナミもそうだったらしく、はにかんでいた。






さん、フリックさんに回復お願いします!」

、そっち行ったぞ!気をつけろ!」


はフリックのほうに右手をかざして詠唱する――時間はないので魔法名だけを言う。

詠唱に比べて集中が足りないので威力は落ちるが、戦闘中のことゆえ全回復でなく小回復を多用する。

集中力が身に付いたら詠唱も魔法名も言わなくてもそれなりの効果が出せるようになるが、まだ出来ない。

ビクトールに喝を入れられたが目の前の、仲間であるフェザーに似た敵――ヒポグリフの爪を防いだ。

回復を受けて傷の癒えたフリックが剣でなぎ払い、戦闘は終了する。


「……城にまでモンスターが出るとはな」


ぼろぼろと崩れていくモンスターを見ながら、ビクトールが呟くのが聞こえた。

モンスターの成れの果てが風に舞い、やがて消えた。


「行くぞ。早いとこ旗を燃やさなきゃならん」


ロックアックスの旗を燃やし、兵の士気をを削がねば。今も戦っている同盟軍を――

はそこで我に帰った。考えに没頭していたのだろう。ルックが眉間に皺を寄せての手を引いていた。

モンスターは今までにない頻度でパーティーの前に立ちはだかった。






「…っ、くそ!」


フリックが悪態をつく。無理もないと蚊帳の外のは思う。

彼らはとても強い。小さな傷や魔法によるダメージは負うものの、決定的な攻撃は受けていない。

だからこそも血を見ることなく、はらはらすることもなく、こうして立っていられるわけだが。

しかし、このモンスターの数は問題だ。時間は待ってくれない。今この時も城外は戦争中だ。

小さく舌打ちして、フリックは叫んだ。


「おい、、ナナミ!俺たちがモンスターを食い止める!こいつら下から上ってきてるみたいだ。

その間に旗を燃やせ。…、お前も行け」


は驚いてフリックを見る。

フリックは、今まで見たことがないくらい複雑な表情をした。困っているような、怒っているような。


「モンスターは下から来ているが、上に残っていないとは考えられない。…分かるか」


――つまりは。

あまりにも上に残ったモンスターが多すぎる場合、フリックと同じことを――囮になれと、そう言っているのだ。

それは一見、いかにもを軽んじた発言のように思える。

しかしはそれを鵜呑みにするほど愚かでも、この場での囮の大切さが分からないほど愚鈍でもなかった。

――行かすのは軍主。生かすのは同盟軍である。

は頷いて、既に走っているたちの後を追った。






動悸が激しくなる。

これほどまでに普段の運動量を悔やんだことはない。二人が速いせいもあるし、が遅いせいもある。

だが客観的に見ればは特に遅いわけではない。普通だ。ならばやはり二人が速いのだろう。

後を追うのは簡単だ。倒れている兵士が目印になっている。

階段を上り、廊下を走って――知らない場所でのテレポートは危険すぎる――モンスターを倒し。

そうして、やっと追いついた。

そのときには人間が一人増えていた。

―――再会はあまりにも残酷な状況下で、背を向けられた状態で、しめやかに行われた。






「――この国は狭すぎるんだ。ハイランドと同盟軍が共存するには。だから――

だから僕は、この地に大きな、強大な国を建てる。王国軍も同盟軍も関係ない。平和が――あればいい」

「ジョウイ…」


ナナミが増えた人間――ジョウイの名を呼ぶ。その表情は心なしか曇っている。

は何か言おうと視線をめぐらせ、そしてに気付いた。

その視線をたどってジョウイもまたに気付く。その目が驚きに見開かれるのを見ては苦笑した。


「久しぶり…というほど間は空いていない気がするけれど」

「何故ここに……いや。君はもともと同盟軍だったね」

「え、何、何?二人とも知り合いなの?」


そうだね、と言っては3人へと近づいた。手を後ろにやり、剣を出現させる。

それと同時に紋章も発動させ、自分の反射神経を限定された時間の中で強化されるよう細工する。


どくん、と心臓が鳴る。

どくん、どくん、そして、どく、どく、と。




ヒュッと風を切る音が聞こえた。




ナナミが目を見開く。それを合図に、は振り向いて剣を薙いだ。

風の紋章も同時に発動させ、風圧により矢は地に落ちた。


「なっ…!?」


ジョウイが驚愕の声を上げる。は矢を放った兵士の元へ走り、トンファーで昏倒させた。

その、あまりにも速く手馴れた動きに、はただただ驚く。

それと同時に――安心した。


――ナナミは無事だ。


これで良かったのかどうか、実を言うとには分からない。

宿星が全員集まっているかなんて知らないし、よしんば集まっていたとしても『奇跡』が起こるか分からない。

自分の存在が、知識との誤差を生み出しているからだ。

だからこそ取った行動であったのだが、それにより何か不都合が生じないかだけが心残りだった。

でも、


「大丈夫?ナナミちゃん」

「え、う、うん。…びっくりしたあ…。ありがとう、ちゃ…あ、ううん、さん」


ナナミは生きている。そのことが純粋に嬉しくて、他の事なんか気にならなかった。

は笑む。


「前の呼び方でいいのに」

「う…でも、私酷いこと思ってたし…しちゃったし」

「今、思っていないのなら、それでいいよ。…私も悪かったんだし」

「…………ちゃん…」


ナナミが嬉しそうに笑う。

ジョウイともそれを見て微笑む。何だかとても嬉しかった。








急にナナミが笑みを消し、その顔を驚きの色で満たす。


「ナナミちゃん?」


それに不安を覚えたは、ナナミの目線の先――自分の背後を振り返る。

矢を番えた兵士たち――おそらく新手だ――が見えた。

がそれに反応し、右手に意識を向けるよりも速く、ナナミはの手を強く引いた。

バランスを崩したは呆気なく後ろに下がる。


「ナ……」


兵士たちが矢を放つ。

全てを防ぎきることができるわけはなく、




ナナミは。






「ナナミ!!!」






の叫びが静寂に木霊した。















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2005.3.21
2006.9.20加筆修正

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