天球ディスターブ 35





叫び声は獣の咆哮に似ていた。

ユリの亡骸を腕に抱えては叫ぶ。

自分の周りに巨大な歪みが発生するのが分かった。そして、その正体も。

これは魔力だ。

今まで幾度と無く目にしてきた、これは魔力なのだ。には、魔力は歪みとして視える。

歪みは渦を成し、の周りを、まるでを守るかのように取り巻いていく。巨大な竜巻のようにも見えた。

風が吹き荒れるような轟音が響き渡り、歪みの竜巻は天高く昇っていく。

ガコン、と音がした。

足元の煉瓦がの魔力に耐え切れず浮き上がったのだ。砕け散りながら空へと舞い上がる様が見える。


「っあ…あ……ああぁぁぁああぁ……!!!]


首が見えない誰かに絞められているように苦しい。息が出来ない。目から涙が零れ落ちていく。

自身は台風の目のような状態の竜巻の中心にいながら、はただ叫び続けていた。

周りの様子は視界がぼやけていてあまり見えない。そうでなくとも、自分の魔力の歪みで見えないのだろう。


血を流し尽くし真っ白になった友人を抱えて、赤子のように叫び続けた。








は目の前の光景に、思わず自身の目を疑った。

一体、何がおきたというのか。

自分たちに見えたのは砂埃が晴れた後の、血濡れの少女を抱きかかえるの姿のみ。

しかし今目の前にあるのは、普通は見えないはずの魔力の竜巻。それも見たことのないほど巨大な。

魔力が目に見えて現れるというだけでも相当な力の持ち主であるというのに、この大きさはどうしたことだ。


「ルック、君なら分かるかい?」


彼の最も尊敬する英雄、が魔術師に訊ねた。

魔術師はその秀麗な顔立ちを不機嫌そうに歪めて首を振る。

周りを見渡せば、皆一様に驚いていた。そう、自分たちと対峙しているはずの王国兵や、ユーバーという者も。

そのなかでも驚きが特に顕著なのが、姉のナナミと、かつて自分を助けてくれた恩人――フリックだった。


――僕は知っている。


心の中でそっと呟いた。途端に頭が冷えていく。

状況に対する驚きは未だ静まらないものの、周りを見る余裕は出てきた。この辺りがリーダーたる所以だろう。


――僕は、ナナミとフリックさんが彼女を良く思っていないことを知っている。


魔力の竜巻によって吹き飛ばされた破片が頬を掠った。血が静かに流れていく。

は視線を二人から外す。

理由は知らないが、二人はを嫌っている。いや、嫌っているというより、疎んでいると言ったほうが正しい。

それは彼女が同盟軍に来たときに捕虜だったからだろうし、

また、軍師が理不尽に彼女を自分たちに同行させようとしたことにも理由があるような気がした。


――そう、どちらの理由においても、彼女自身が何かをしたというわけではなかった。


いや、後者においては言い返さなかった点でのほうに非があるのだろう。

とかく揉め事を疎む傾向が彼女にはあった。嫌われるのを恐れていた、というべきか。

それはある意味でもっとも賢い選択であり、また一方で、決して進歩することのない考え方であった。


――何を恐れているのだろうか。


には窺い知ることは出来なかった。それはとても深いところにあるような気がしたのだ。

聞いてはいけないと、そう思った。

ふるふると首を振って、現在の状況に集中する。

竜巻は更に大きく高くなっている。このままだと自分たちも飲み込まれてしまうだろう。

今すべきことをやるしかない。


そう、今信じることのできる事実は、竜巻の中心にいる人物は自分たちの仲間であるということなのだ。








地面にしゃがみこんだまま、はユリを抱きしめていた。


――自分は彼女にどれだけ救われていたことか。


何度も嫌になった。全てを投げ出してしまいたくなった。頑張らねば――その気持ちが挫ける時もあった。

その度にユリのことを、あの戦争の後からは兵士のことを、そしてルックややシュウのことを思い出した。


――優しい人たち。自分のことを気に入っていたと言ってくれた人。


優しさが嬉しかった。元いた世界では何とも思わなかったであろう優しさがこの上もなく愛しいものだと知った。

愛しかった。

愛しかったのだ。

ナナミのことも、フリックのことも、自分を嫌っている同盟軍の人々も、何もかも、全て。

この世界に生きている人、生き物、モンスター。その存在の全てを愛しいと思った。間違いなく好きだった。


――自分はこの世界の住人ではないから。


この世界の存在が羨ましかった。生きて、笑いあう、そんな人々がこの上なくまぶしかった。

嫌われていると言う事実が悲しかった。

好かれたいと思った。

でも、どうすればいいのか分からなかった。


「…憎みたかった」


呟いた。涙が目を閉じたユリの頬に落ちた。


「憎みたかった。憎みたい。憎みたい、憎みたい…」


でも、憎めない。


「何で?」


――愛しいから。


「…どうしてそう思うの?」


その問いに答えるものは誰もいない。流れる涙と漏れる嗚咽を必死に抑えて、は周りを見る。

魔力の向こう側に見える、破壊された家々、路、木、花、そして人。全て自分の魔力によって。

驚いた表情でこちらを見る達。反対側にいる王国兵、黒騎士ユーバー、ボーンドラゴン。

骨だけの、そのモンスターを見た瞬間、は怒りに目を開き、右手を前に出す。


「憎んでしまえば、全て終わる」


ユリを殺したモンスターに仇を討て。憎しみをぶつけてしまえ。相手を破壊してしまえ。

それで怒りはおしまいだ。全て解決だ。ぜんぶ、元通りだ。


「……っ」


――泣かないと決めたのに。全てが終わるまで決して泣かないと。

自分はこんなにも弱い。情けなくなってくるほどに弱く、力を持たない。誰も助けられない。今回だって。

左手にかかるユリの重みが、自分を現実に繋ぎとめてくれる。夢ではないのだと教えてくれる。



は、震える右手を地に降ろした。



ユリの躯を両手で抱きしめる。

氷のように冷たかった。


「憎ませて、憎ませて、お願いだから」


それが心からの言葉でないことは分かっている。

ユリを殺したボーンドラゴンにさえ、自分は憎しみを抱くことが出来ない。理由が分からないから余計に悲しい。

自分が最後に誰かを憎んだのはいつだった?


――グリンヒルのパーティーを決めるときだ。


思えば、久しく誰かを憎んでいない。それは傍から見れば美徳であり、本人にしてみれば苦痛なことだった。


――今は何も考えたくない。


涙を拭うこともせず、ユリを抱いたまま、は真上を見上げた。

台風の目の状態である竜巻の中心、その上空だけは、これまで見たことが無いほどに晴れ渡っていた。








ナッシュは必死だった。

グリンヒルの中に飛び込んで行こうともがく子供たちを必死の思いで止めていた。


「離してください!離して、離して!!行かせてよ!!姉さんのところに行かせてよ!!!」

「やめろ、アルベルト!お前が行ったってどうにもならないだろう!」

「そんなの行ってみなくちゃ分からない!離して、――離せよ!!」


その騒ぎを聞きつけたらしい同盟軍の兵士が、一人の男を連れてナッシュの元へ来た。


「…アルベルト」


男は静かに少年の名を呼ぶ。

ナッシュはこの男を知っている。いや、同盟軍を知るものならば誰でも知っているだろう。

軍師、シュウ。軍主であるに続いて著名な人物だ。


「………シュウおじさん」

「もう帰ったと思っていたのだが。一体こんなところで何をしている?ここはお前の来るべきところではない」

姉さんを助けに行くんだ」

「…!」


シュウは驚きに目を見開く。

告げる少年の顔は、この場のどんな大人よりも真剣で、大人びていた。


「約束したんだ、シーザーと。姉さんは僕らで護るって。

姉さんは敵がいっぱいだから、味方がいないから、だから僕らで護るんだ!」

「……それは、が同盟軍を出て行ったことと関係があるのか?」

姉さんは僕らのために出て行ったんだ。姉さんを嫌ってる人たちが僕らに危害を加えないように。

姉さんは責めなかった。誰も責めなかった。だけど、責められてた。ねえ、何で?……教えてよ。

何で姉さんは嫌われてるの?姉さんは何か悪いことをしたの?」

「…知ってどうする?お前には関係が無いだろう」


アルベルトは、表情を一段と怒りに染めてシュウに食って掛かった。


「あるよ!もしも姉さんが悪いことしたんだったら、僕らがそれを正してあげる。悪いことは悪いことだから。

だけど、悪いことしてないのに嫌われてるんなら――姉さんが可哀想だ」


言葉の最後は、アルベルトがうつむいたために聞こえにくいものとなっていた。

シュウは皮肉の入り混じった笑みを浮かべる。


「あいつはそんな評価、望んではおるまい」

「何でそんなことがおじさんに分かるの!?」

「さあ、な。勘だ。ただ、俺はあいつが恨み言を言うところを久しく聞いていない。何故なのかは知らんがな」


シーザーは先ほどから泣き止まない。

ナッシュと兵士は彼らのやり取りを、ただ聞いていた。

その内容に驚いていたせいもあるのかもしれない。アルベルトを拘束する力が緩んでしまった。

その隙を突いて、アルベルトはナッシュの腕からシーザーを奪い返し、大人たちを振り切って駆けていった。


「…あ!こら、待て!アルベルト!!」


焦って、ナッシュは叫ぶ。

彼らを捕まえようと一歩踏み出す。しかし、誰かの腕がそれを止めた。


「……どういうつもりだ?」


声を低くしてナッシュは兵士に聞く。

兵士はアルベルトたちの姿が見えなくなると腕を下ろした。


「個人的に、アイツは助けてやりたいんでね」

「アイツって…のことか?何でお前が知ってるんだ?」


兵士はグリンヒルを睨みつけ、表情をますます険しくした。


「……なんの嫌がらせだ?これは。なあ―――」


語尾は風に紛れて、ナッシュには聞き取れなかった。





轟音と共に、巨大な竜巻がグリンヒル内部から天高く昇っていった。

あんなにも晴れていた空が曇っていく。


「これは一体…?」


呆然としたシュウが誰にともなく呟く。

意外にも返事は返ってきた。


じゃよ」

「……?おばば…あ、いや、シエラ。どういうことだ?があれを起こしたってのか!?」

「そうじゃ。おんしらは気付かなかったであろう、あやつの魔力の凄まじさに。

あれは――継承者にしか分からん」

「継承者?……は、真の紋章の持ち主なのか!?」

「……少し、違うな。あれは真の紋章ではない。………おんしらは知らなくていいことじゃ」

「どういうことだ?」


訝しんだシュウが、シエラに訊ねる。

少しの間をおいた後、シエラは苦々しそうに呟いた。


「あれは……重過ぎる」








は地面に仰向けになり、空を眺めていた。

最初は、どうして憎めないのかを考えていたが、やがて止めた。

今はただ、ユリの亡骸を葬りたいと、それだけを考えていた。

しかしユリのことを思うたびに悲しみが蘇って、涙は溢れ嗚咽が漏れた。


「……っあ……っ」


背徳感がを襲う。

立ち直らなければいけない。今は戦闘中だ。悲しんでいる場合ではない。

――だが、涙は止まらない。

理性と心が別々に動いている。コントロールしようにも、今の自分には出来ない。

の心を反映して、竜巻は更に大きくなっているようだった。

むくりと起き上がって渦の外を見る。




目を見開いた。




少年の赤い髪の毛が魔力による風になびいている。

その少年の手をしっかりと握って、同じく赤い髪の幼子が今にも泣き出しそうにこちらを見ている。


「…アルベルト……シーザー……」


驚きに声が漏れる。

幼子を抱えて、少年は竜巻の方に向かって歩いてくる。達が止めているのが見える。


「…やめて」


飛び交う破片が少年の肌に傷を作っていく。赤い傷が少年に増えていく。

幼子を護るようにしっかりと腕に抱いて、少年は一歩一歩、確実に歩いてくる。


「来たらいけない」


このままだと少年が危険だ。

かといって竜巻がどうやったら止まるのか分からない。

実を言うと、先ほどから何度も止めようとしていた。そしてその度に止まらなかった。


「だめ」


少年の歩みは止まらない。


「だめ」


傷が増えていく。


「やめて、お願い、止まって」


少年が竜巻に触れるまで、後何秒も無い。このままでは少年たちは竜巻に切り裂かれてしまう。

少年たちは――アルベルトとシーザーは。


「…嫌だ。嫌だ、だめだ、やめて。お願い、止まって。殺したくない、殺したくない、殺したくない…!」


――名を、呼んでみよう。

そういえば今まで一度も呼んでいなかったような気がする。

名を。



「――天球の紋章よ!!!」












何かが割れる音がした。












の頬を風が撫でる。

竜巻が霧散していった。青空が、広がっていく。

はアルベルトたちを見る。思いのほか、兄弟は遠くにいた。それが竜巻の大きさなのだろうと思った。

アルベルトは呆然とした顔でシーザーを降ろし、そして――のもとへと駆け寄った。


叫ぶことも、何も無く、少年はに抱きついた。


「アルベルト…」

「……っ…う……」


肩が小刻みに震えている。

頬も腕も、傷だらけだった。

もアルベルトを抱きしめる。淡い光が右手から溢れ、アルベルトの傷を治していった。

遅れて抱きついてきたシーザーの傷も癒していく。


!」

さん!」


達もまた駆け寄ってくる。ナナミとフリックも含む、全員で。

王国軍と黒騎士は消えていた。ボーンドラゴンだけが、固まったように動かない。


「よかった…無事で……」


がアルベルトの上からを抱きしめた。

温かさに涙腺が緩んでいく。


「彼女は…?」


おずおずとナナミが、ユリを指して言った。

答えようと、は口を開く。かすれた声が出た。


「大切な人」

「大切な人…?」

「とても、とても、大切な人。グリンヒルの宿屋の娘、ユリ」

「グリンヒルの…?」


ナナミはそう言って、ボーンドラゴンを見る。

そして、真剣な面持ちで言った。


さんが、止めを刺して。アイツに」

「…ボーンドラゴンに?」

「うん。だって、さんの大切な人を奪った張本人だよ!?さんが、止めを刺して。仇を討ってあげて!」


ナナミの目に涙が浮かぶ。

ユリの死を純粋に悲しんで、ボーンドラゴンを憎んでいる。

は目を伏せた。


「できない」

「…っ!何で!?どうして!?」


言葉を言うのが苦しいと、これほど感じたことはない。


「…私は、憎むことを忘れてしまったようだから」

「どういうことだ?」


フリックが訊ねる。は首を振った。


「分からない。だけど、どうしても憎めない」

「……それは、お前が王国軍だからじゃないのか?」

「フリックさん!?」


が驚きの声を上げる。

しかし、フリックは静かにそれを制した。


「不穏因子を残すわけにはいかないんだ、リュウ。全ての不安は取り除かれなければならない。

俺は、同盟軍でいる限り、全力を尽くしてお前を護るつもりだ。そのためには、真相を明かす必要がある。

もう二度と――三年前のような裏切りは、見たくない」


が微かに反応した。

彼もまた、忘れていないのだろう。信頼していた人に裏切られることの悲しみを、落胆を、絶望を。


「…、少し我慢してやってくれ」


ビクトールが悲痛そうな面持ちで告げ、に問う。


「何で、憎めないんだ?」

「それは……」





「それは、が『守護者』だから」





この場の誰でもない声が響いた。

皆、驚きとともに振り返る。自分たちの背後、そこにいる人物を確認する。

先が二つに分かれた帽子、奇抜な色の服、右目の下の星型のタトゥ。

――ピエロ。


「守護者って…そりゃどういうことだ?」


ビクトールの問いに、ピエロは空を一瞥して答える。


「――星を見ると、まるで丸天井が僕らの周りを囲っているように感じられる。

巨大な丸天井に星が散りばめられていて、僕らは内部からそれを観測している。――それが天球」

「…?何のことだ?」


ピエロはフリックの疑問に答えることなく、言葉を進める。


「全ての星々は天球を廻る。星は、命。人も動物もモンスターも、等しく持っているもの」

「それって……私たちが星だ、ってこと?たしかに宿星ではあるけど……」


ナナミが問う。ピエロはやはり、答えない。


「全ての星々は天球の中に――天球の紋章の守護者たる、の中にある」

「天球の…守護者?さんが?天球の紋章は、真の紋章なんですか?」


の問いに、ピエロはようやく答えた。


「天球の紋章は真の紋章じゃない。真の紋章含め、全ての紋章を束ねる、紋章とは性質の異なる存在」

「真の紋章と全ての紋章を、束ねる……!?」

「天球にとって、内部の星は子供のようなもの。全て愛しく、大切な存在。――だから憎むことが出来ない。

子供を――命あるものを、憎むことは出来ないんだ、




そしてそれが―――天球の紋章の、最大の呪い」





はピエロを見上げ、そして右手に視線を落とした。

憎むことを許さない、紋章。

全ての命は天球の中にあり、また、天球の子供である。

誰かが誰かを傷つけるのは、天球にとって子供同士傷つけあっているのと同じこと。

――何と、残酷な紋章であることか。


「…じゃあ私は、自分の子供たちをこの手で殺してきたと…?」

「そう思うのも思わないのも次第だよ。子供といっても比喩的なものだから」

「………」


ルックが前に進み出る。


「君は、一体何者なわけ?何でそんなに、その紋章のことを知っている?僕もレックナートさまも知らないのに」


には、大体の予想が付いていた。

今までのピエロの行動を考えればさして難しくないこと。

だが、答えはピエロの口から聞きたかった。


「僕は、天球の紋章。君たちが言うところの『化身』という存在」

「…紋章には、そこまで意思があったというの?」

「僕と他の紋章は一緒に出来ないよ。存在の根源から違うから」

「……?」

「はじまりの物語を知ってる?」

「……『さいしょにやみがあった』?」


から手を離し、ピエロに体ごと向き直って聞く。

ピエロは頷いた。


「――『やみ』もまた、天球の一部だということだよ」

「…!」


ピエロは一息置くと、のそばに歩み寄った。


「あとは言えない。まあ、これだけ言えば天球の紋章に関しては十分だろうけれど。

真実は君たちが見るといい。狂皇子との戦いの裏側を。

戻れ、君たちの城に。


――そこに、待ってる」


そう言うとに覆いかぶさるようにして、消えた。

途端に大きな疲労感がを襲う。

魔力の過剰放出、気の緩み――要因はいくらでもあった。

しかし、ここで倒れるわけにはいかない。ボーンドラゴンがのほうへやってくる。

は立ち上がり、同じようにボーンドラゴンのほうへと歩いていった。


「――おいで」


ボーンドラゴンが頭をに預ける。

流れ込んでくる、記憶の渦。殺した人間、殺した自分、操る黒騎士の姿――。


「死を望むのか」


啼いて、ボーンドラゴンは天空を見上げた。

は両腕をいっぱいに開いてボーンドラゴンを抱きしめ、言葉を紡ぐ。


「――君の魂に祝福を」


ボーンドラゴンは光に包まれ、そして塵になって消えていった。

一声、歓喜の産声をあげて。





自分の体が倒れていくのが分かった。

背中が地面に衝突する前に、誰かが支えてくれたことも。

ぼやける視界の中で、鮮やかな空の蒼と、そうでない、支えてくれた人の青が見えた。


「弔い…」

「俺たちがやっておく。お前は休んでろ。………今まで、すまなかった」


眩しい日差しに目が痛い。

涙が流れたが、これはきっと、日差しが眩しすぎるせいだ。――そう、思うことにした。


そしてはゆっくりと、意識を手放していった―――














人は死ぬとき、少しだけ軽くなるという。


もしもそれが魂の重さだというのならば、人に魂が存在するというのなら。

ユリ。君の魂は、きっととても価値のあるものだった。少なくとも私にとってはそうだった。



君を忘れない。






――伝えられるのなら、ありがとう、と。















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2004.12.31
2006.9.19加筆修正

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