組曲


1.夢の中へ
――Welcome to the beautiful world !――







ハリー・ポッターが好きです本が好きです大好きなんです。

とか友達に言うと「ああそう」とにべも無く返されました。ドライなヤツです。

でもとりあえず私がハリポタを好きなのはそんなことじゃちっとも揺るがないので、私もドライに返します。

友達に言わせると私はハリポタのことになるととてもウェットな人になってしまうらしいですが、


ハッ!関係ないね!と笑い飛ばせるくらいに好きなのでしょうがないです。






とかなんとかいうテンションを今のこの状態でも保てるんならすごいと思う。

どんな状態かって、手紙。

ホグワーツ魔法学校からの招待状。

朝食の席で不審そうな顔をした親から渡されて私もビックリよ流石に。

何かもう、トースト口にぶら下げて静止する蝋人形、みたいな。


「父さん母さん、私誰かに恨み持たれたのかも…」

「う…うーん…」

「え、ええと…紙とかは何だか高級ものっぽいけどねえ…。本物だったりして?」

「(ありえねえ!)」


軽やかな朝食を見事に邪魔してくれた手紙の存在だけでも厄介なのに、こんな時に限って電話が鳴る。

母さんがその場から逃げ出すように電話に出る。

私は父さんに手紙を渡す。父さんは封を切り、手紙の内容を見ると私に押し返してきた。


「げ、英語だ」

「父さん、大学では日本史専攻だったから英語は無理だなー」

「あーりーえーんー。誰か英語分かる人いない?母さんは?」

「母さんも生粋の日本史専攻だぞ。そのおかげで出会ったんだし」

「文系家族なのに英語がだめってどうなの」

「気にするな」


気にしようよ、あはは、とかいう会話を交わしていたら、不意に手紙に目が止まってまた沈黙した。

母さんの声が聞こえる。


「え、ちょっと待って、何?何がどうなって……はい、はい、分かりました。一度をそっちに…」


カチャン、と受話器を置く音がして、母さんがフラフラしながら入ってきた。


「どうしたの、母さん。ていうか私どっかいくの?」

「ふ、ふふ…。おばあちゃんが魔法使いがどうたら言いだして、一度をこっちによこせって…」

「ま、ほうつかい?」


母さんは青ざめている。父さんはオロオロしながらうろたえまくっている。


「とりあえず、。一度おばあちゃんのとこに行っておいで。帰ってから事情は聞くから」

「うん(ていうかおばあちゃん家ってどこだっけ)」






沖縄でした。


「夏の日差しが目に痛いぜチクショウ…」


沖縄は大好きなんだけれど、沖縄よりも北に住んでる私が夏に来るには少し厳しいものがある。

海は綺麗だし空は青いし雲は白いし言うことなしの絶景


だったのはついさっきまで。


「あ、ありえない…」


目の前にはうっそうと覆い茂る、屋久島の杉の木も真っ青な大樹を中心とした樹海。

キーとかギーとか鳴き声が聞こえてくるんだけどここはジャングルですか。

いくら沖縄でもこれはありえない。

というか、地図にも載ってない島におばあちゃんがいるって時点で不自然だったんだ実は。

いつまでもここに立っていても仕方がないので2,3歩踏み出すと、心なしか道が開けてくる。


「むしろ、道ができてる?」


そのまま10歩も進むといきなり樹海の中に広場が出来て、その中心に普通の日本家屋が建っていた。

縁側に着物を着た老婆が座っている。暑くなさそうで、とても不思議だ。


「おばあちゃんですか?」

「ん…?おお、よくきたねえ、ちゃん。大きくなって。前にここに来たのはいつだったかねえ」

「確か3歳の頃に来たきりだったと」


それ以外はおばあちゃんがウチに来ていた。

お上がり、とおばあちゃんが言うので、私は玄関に回って家に上がる。

居間に向かいながら私は思う。

世間話をする気はないのだ、悪いけれど。単刀直入に聞こう。


「さあさ、お座り」

「ありがとうございます。で、本題なんですけど

「…いきなりねえ。落ち着いて?」

「魔法使いがどうの、と電話で話していたそうですが」

「ああ、そうだったわねえ」

「はっきり聞きます。おばあちゃんは魔法使いなんですか?」


かなり馬鹿な質問だと自分でも思う。

でも、真剣だ。真剣すぎて敬語になるくらい。

これで笑って否定してくれればいいのだが。


「そうねえ、そういうことになるわねえ」


見事に肯定されてしまって、もう、どうしたらいいのか。


「…信じられない……」

「でも、アナタのお父さんとお母さん以外、みんな魔法使いなのよ?」

「は!?」

「みーんな、ホグワーツの卒業生なの」


そんな馬鹿な。

頭を抱えてちゃぶ台に突っ伏していると、青年の声が聞こえた。


「夏野菜、結構収穫できたよ」

「あら、ありがとうリドル」


………

……………リ ド ル ?


ガバッと頭を上げたその視線に映るのは、黒い髪に赤い目の青年が麦藁帽子と野菜籠を持っている姿。

縁側の青年は私に気がつくと、おばあちゃんに向かって言った。


「この子が孫?」

「ええ。ちゃん、この人はリドルさんよ。トム・マールヴォロ・リドル。教師時代の教え子でねえ…」

「ち、ちょっと待って。引退して随分経ってるよね。おばあちゃんの教え子ってかなり無理が」

「そうねえ。でも、この人は『記憶』だから…」


頭が混乱する。


「おばあちゃんは、ハリー・ポッターの本を知っているの?」


苦し紛れに私が言った一言は、どうやら核心を突いたらしい。

おばあちゃんも青年も表情をなくした。

目を逸らさずに見つめていると、おばあちゃんが溜息を一つ吐いた。


「……知ってるわ。そのことでアナタを呼んだのだもの」


青年を居間に招きいれ、おばあちゃんは話し出した。






「何でかは知らないんだけどねえ、たまにあるらしいの、こういうことが」

「こういうこと、って?」

「俗に言う異世界ってやつから、少しだけ干渉されるのよ」

「?」

「……分かりにくいって。僕が説明するよ」

「あら、そう?じゃあお願いするわね」


青年が話を引き継ぐ。


「僕の名前はさっき聞いたよね。聞き覚えは?」

「…とても」

「だろうね。まあ、簡単に言ってしまえば、君のおばあさんは異端なんだ」

「異端…?」


この二人と話していると異端なのは私のほうじゃないかと思ってしまうのだが。

彼らが異端なのだろうか。


「そう。君の言う『ハリー・ポッター』という本の世界は実在するし、もちろん今、君のいるこの世界も現実だ。

パラレルワールドと、マグルはそう呼ぶのかな?

で、君のおばあさんが異端なわけだけど。この2つの世界を行き来してしまったんだ。ここまでは?」

「お、オーケイ…」

「行き来した理由は、ただの事故。深い意味はない。でも、それによって少しだけ世界のバランスが狂った。

この世界とあちらの世界…ハリー・ポッターの世界が細く繋がってしまったんだ。

普段は影響は無いんだけど、この家の暖炉からは魔法界に行けるし、君に手紙も届いただろう?」

「届いたよ」


この日本家屋には暖炉があるらしい。


「その程度の小さな変化が起きるようになったんだ。

君の両親がマグル…スクイブだったから、君が魔法使いになるとは予想してなかったんだけどね」

「ええと、つまり」


私は先程までの話で得た情報を整理する。


「おばあちゃんが事故ったせいで世界が少し繋がって、その影響が私に出た、と」

「そういうことねえ。この世界でちゃんだけ、魔法界の干渉を受けちゃったのね。血筋かしら」

「ちなみに事故った原因は」

「新しい魔法薬を作ろうとして、ちょっと…ね」


おなあちゃんがが含み笑いで言う。(怖いよ!)

私は縁側の外に広がる樹海を眺めて、少しばかりたそがれた。






「で、魔法学校入学…ですか」

「バランスを保つにはこれが一番いいんだけど…嫌ならやめてもいいのよ?」

「いや、入る気は満々だよ。それより、リドルさん」

「リドルでいいよ。何?」

「私の知識では、リドルはヴォルデモートの過去で、ぶっちゃけ悪人だったような気がするんですけど」


そうだ。

この世界を支配でもされたら困る。

そう言うと、リドルは苦笑しながらこたえた。


「僕はバランスを崩すのが怖くて本を読んでないんだけど、君の知るヴォルデモートとは別人だと思っていいよ」

「別人?」

「そう。僕自身、魔法界にはちょくちょく行くから彼のことは良く知ってるけど…これにも事情があってね」


リドルはどこからか杖を取り出して、クルクルと指先で回す。

そして笑みを消して、今度は少し憮然としたような、拗ねているような表情になる。


「僕は彼の『青春』なんだ」

「…やけに甘酸っぱい響きだけど」

「うん。何て言うんだろう…彼が『負』だとすると、僕は『正』の部分。

ヴォルデモートに余計な感情はいらない。つまるところ、僕は彼の『少年らしさ』の部分ってことだね」

「おばあちゃんの教え子なんでしょ?やけに長持ちの記憶だね」

「賢者の石をもらったからね」

「………は?」


とんでもないことを聞いた気がする。

リドルは少しだけ笑みを浮かべた。


「彼は『負』、僕は『正』。根本的なところは同じでも、彼と僕は正反対の性質を持っている。

だから彼は僕が気に入らなくて僕を捨てたし、僕は彼が気に入らない」

「正反対ならそうだろうけど」

「で、行くとこがなくなった僕はダンブルドアに発見されて、害はないということで賢者の石を授かったんだ」

「私の家にいるのは、異世界なら見つかって取り込まれる心配もないからだわねえ」

「取り込まれる?」

「ただ捨てられるのは癪だから魔力をごっそり抜き取ってやったんだ。いい気味さ。そのせいで狙われたけど」

「…ヴォルデモート、パワーダウン?」


リドルはニヤリと笑んで、回していた杖を手に取る。

呪文も何も言わずに杖を振ると、ちゃぶ台が少し浮いた。


「残念ながら、魔力は放っておけば補われる。それがないのはゴーストくらいなもんさ。

だけど、おかげでヴォルデモートはハリー・ポッターを殺せなかった。彼の母親の力もあったしね」

「へえ」










父さんと母さんにはおばあちゃんが根気良く説得するというので、私はおばあちゃん家に泊まることになった。

二階の一番奥がリドルの部屋、その手前の部屋が私にあてがわれた。

おばあちゃんは一階の隠居家に寝ているらしい。

部屋は和風の畳に座卓に低い机。そして布団。


、ちょっといい?」


リドルはふすまにノックという、一風変わった行動をする。

ス、と開けられたふすまの向こうには、男物の浴衣を着たリドルがいた。寝巻きのようだ。


「なに?」

「ホグワーツ入学の件だけど、僕も入学することになってるから、よろしくね」

「え、でも年齢制限は?」

「そこらへんはダンブルドアに頼むさ。も一緒に2年生に入学になるから、少し年齢を下げてもらわないと」

「…なにかあるの?」


リドルはまた、あのニヤリとした笑みを浮かべる。

そして部屋に入ってきて、座卓に腰掛けた。


「僕はヴォルデモートが気に入らないんだ」

「聞いたよ」

「だから、君の知識を貸してほしい」

「邪魔をするってことだね」

「そうだよ。だって…」


そこまで言うとリドルは握りこぶしを作り、俯いて型を振るわせる。

どうしたのかと心配になったが、次の瞬間、勢いよく顔を上げた。


「声はまだいいとしても、あの顔!あの鼻!僕の時代の面影がどこかに消えちゃって!

許せない!僕の美貌は一体どこにいったんだ!!」

「ナルだ…。いや、事実だけど、うん…」


リドルは格好良い。それは認めよう。

だが、まさか「自他共に」だとは思っていなかった。


「というわけで!僕は思いっきりヴォルデモートの邪魔をするから。協力してくれるよね?」

「バランスはどうなったんだ」

「そこら辺は実験済みだから大丈夫」

「じっけ…!?」






とりあえず、ホグワーツ途中入学者2名、入学決定したようだ。

今の時間軸が良く分からないが、2年生にリドルが入るというのなら、多分ハリーも2年生なのだろう。


え、てことは今って1992年?















2004.9.1

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